『声の道場』 山村庸子/能楽師

今月始め高井戸中学校の三年生130人に、お話しする機会をいただきました。

これから受験の面接に向けて、しっかりした声で話せるよう指導してほしいということだったのですが、時間はたったの50分。その中で彼らにインパクトを与えるにはと考えました。マイクという器材を使わなくても自分の持っている体という響鳴体を使うということを最初に話し、マイクを外して先日のお話の時のように、目的や広さによって自由に調整出きることをしてみせ、人間は一人一人がこの響鳴体を持っているのに使えていない、それはなぜか?姿勢が悪いからだ。姿勢を正して日常生活を送れば、声だけでなく健康にもよく、元気な年寄りになれる、と力説してきました。
最初は緩んでいた彼らの体が話と共にシャキッとしてきて、一緒に体を楽器にして出す声や、遠くに届ける声など、面白がって実践してくれました。
後日、感想文が届いたのですが、ほとんど全員が姿勢を正すことが、今目の前の面接だけでなく、一生を通じて大事なことだと感じた、と書いていました。また、家族や回りのひとにも健康でいてほしいから伝えたい、と書いてくれた子も。私がお話ししたり指導したりするのが、声が出づらくなったお年寄りが多いので、若い人たちに話せて嬉しい、と言っていたことに対し、若い人たちにこそ必要なことではないか、と書いてくれた子もいました。
先生方も今後自分達も含めて気をつけてくださると言ってくださいました。
私が能楽師だということいがいは、あまり能の話をしなかったにも関わらず、能を観てみたくなったという子も少なからずありました。声の力強さを感じてくれたようです。無理に能を見せるよりも、能の良さをわかってもらえて有効かもしれませんね。
また、姿勢を正しくすることのメリットを、若い人たちに強く訴えかけていくことの必要性を改めて感じました。
中学三年生にこれだけ受け取ってもらえたのが嬉しく、日本姿勢学会にご報告するしだいです。

生徒の感想文:
1)マイクやスピーカーなどで簡単に大きな声が出せる現代だからこそ、日本人として、自分の体に声を響かせ、自分の声を相手に伝えることが大切だとわかりました。また声には意志が現れ、発声方法の違いによって届き方が違ってくることもわかりました。声は姿勢と深い関わりがあり、姿勢は体の健康に深い関わりがあると聞き、自分の声を良くするためには姿勢、つまり腰の位置を直す必要があると思いました。日頃背筋があまり良くない私には、普通使わない筋肉を使い続けるのは少し辛かったです。しかし講演の最後には良い姿勢で響きのある声を出せるようになりました。今回の講演で、高校受験の面接だけでなく、今後生きていく上で非常に大切なことを学べました。姿勢、そして声を美しいものにして日本人としての美しさを手に入れたいと思いました。

2)「声の道場」ということで声の出し方を学ぶのかと思ったが、姿勢のことについて話していただいて驚きました。私は小学校6年生までバレエを習っていたので姿勢は良い方だと思います。しかし、姿勢が寿命や健康にも影響するとは全く知らなかったです。また、姿勢の良い悪いで声の太さが変わることにも驚きました。能を習っているから声が太いと、講演前はそう思っていました。ではなくて、能は姿勢を正しく動くものだから声が太くなるんだと今は思っています。私たちはもうすぐ受験というものをむかえます。今回習ったことを最大限に生かして個人面談や集団討論をしたいと思います。これからも姿勢をより良くして、自分が年寄りになったとき、きれいな姿勢でありたいです。

3)私は小さい頃は姿勢が良かったのですが、だんだん悪くなっていました。しかし、直そうとしても気がついたら元に戻っていたり、背中や腰が痛くなったり、なかなか直りませんでした。今回先生から姿勢を正しくすると、健康になり、若々しくみえ、良い声も出せると教えてくださったので姿勢は一石で何鳥にでもなると思いました。これは何としても直さねばと思いました。体の要である腰をうまく使うように心がけようと思いました。先生の能の声はとても太くて驚きました。私は能は見たことがないので今度機会を作って見てみたいと思いました。今回の講演はとても有意義な時間となりました。これを機に姿勢を直したいです。


山村庸子(やまむらようこ)
昭和23年福岡県生まれ。昭和46年慶應義塾大学商学部卒。
昭和47年福岡にて観世流シテ方鷹尾祥史師に入門。結婚、出産、子育てを経て、
昭和63年梅若六郎(玄祥)師の薦めで観世流師範となり、梅若会に所属。
平成17年観世流準職分となる。緑桜会主宰。息を使った自分本来の声をみつけるための “声の道場”主宰。
著書に『声の道場〜日本の声が危ない〜』『声の道場Ⅱ〜ハイハイ・ハイッのすすめ〜』(ともに一世出版)


▲ このページのトップへ